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福岡地方裁判所小倉支部 昭和46年(ワ)618号 判決 1972年9月20日

原告

山田耘平

被告

長谷川和彦

ほか二名

主文

被告らは各自原告に対し金一八六万一、〇〇〇円およびこれに対する昭和四六年八月二四日から右完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

原告その余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。

本判決中、原告勝訴部分に限り仮に執行することができる。

たゞし被告らにおいてそれぞれ金一〇〇万円の担保を供するときは右仮執行を免れることができる。

事実

原告訴訟代理人は「被告らは各自原告に対し金三五二万円およびこれに対する本訴状送達の翌日から右完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求の原因並びに抗弁に対する答弁として、

「一 本件事故の発生

昭和四四年四月八日午前零時三〇分頃北九州市八幡区香月町上香月黒川葉川橋附近において被告長谷川は自家用小型貨物自動車(車台番号五二〇―〇八五四三九、登録番号北九州四す四〇三七、以下単に加害車という)を運転して直進中、道路上のくぼみにハンドルをとられ加害車を黒川に転落せしめ、同車助手席に同乗していた原告に頭部打撲、頸椎捻挫、第五、第六頸椎骨軟骨症の傷害を与えた。

二 被告らの責任

(一)  被告長谷川は自動車運転者として絶えず前方左右を注視して事故の発生を未然に防止すべき注意義務があるのにこれを怠り漫然運転したため道路上のくぼみにハンドルをとられ加害車を黒川に転落せしめたもので同人は民法第七〇九条により原告の蒙つた損害を賠償すべきである。

(二)  被告有限会社寺井工務所(以下単に被告工務所という)は加害車の所有者であつてこれを同社の従業員の送迎などの業務に使用して運行の用に供し、被告長谷川は被告工務所の従業員で同じ従業員の原告を送るため加害車を運転中本件事故を発生させたものであるから被告工務所は自賠法第三条、又は民法第七一五条第一項により損害賠償義務がある。

(三)  被告日本海上火災保険株式会社(以下単に被告保険会社という)は被告工務所との間に所謂任意保険契約(契約番号八九〇六六〇六、契約期間自昭和四三年九月二五日至同四四年九月二五日契約者被告工務所)を締結し前記のとおり本件事故が発生したので被告保険会社は被告工務所に対し同被告が原告に対して負担することによつて受ける損害を填補する責任があるところ原告は民法第四二三条により被告工務所に対する損害賠償請求権に基づき被告工務所の被告保険会社に対する保険金請求権を代位行使する権限がある。

三 原告の損害

(一)  休業損害

原告は本件事故当時被告工務所の現場責任者として月収六万円の収入を得ていたが本件事故による前記傷害のため昭和四四年四月八日から同年八月二七日までの間に約二ケ月同月二八日から昭和四六年八月二八日までの約二四ケ月間休業せざるを得なくなりその間の収入を得られなかつたので金一四四万円を損害として請求する。

(二)  慰藉料

原告は本件事故による受傷で頑固な頭痛、頭重に悩まされ頸頂部痛、右肩上肢痛で日々苦しみ入院二年を経過するも退院できず精神的苦痛は極めて甚大で慰藉料は金二〇〇万円をもつて相当とする。

(三)  弁護士費用

被告らは原告に対し任意弁済しないので原告は原告訴訟代理人に本件訴訟の提起追行を委任し福岡県弁護士会報酬規程の最低手数料を下廻る金八万円を着手金として支払つた。

よつて原告は各自被告らに対し金三五二万円およびこれに対する本訴状送達の日の翌日から右完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

四 被告工務所および被告保険会社の抗弁は否認する。

と述べ

被告長谷川、同工務所訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁並びに抗弁として

「一 請求原因第一項の事実中原告の受傷の点は不知、その余の事実は認める。

二 第二項の事実中、本件事故につき原告主張のとおり被告長谷川が民法第七〇九条、被告工務所が自賠法第三条の責任を有することは認めるが、被告工務所の民法第七一五条の責任および被告保険会社に対する保険金請求権の代位行使は争う。

三 第三項の事実中、原告が被告工務所の従業員であることは認めるがその余は争う。

四 抗弁

本件事故は原告が帰宅途中被告長谷川に命じて原告の知人宅に立寄らせ被告長谷川を数時間待たせた後自宅に送らせる途上発生したものであるから原告の損害を全額被告らに負担させることは公平の原則に反して許されず本件については過失相殺がなさるべきである。」

と述べ、

被告保険会社訴訟代理人は「原告の訴を却下する。訴訟費用は原告の負担とする。」予備的に「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁並びに抗弁として

「一 本案前の抗弁

(一)  原告がする被告工務所の被告保険会社に対する保険金請求権の代位行使は訴の要件を欠き却下されるべきである。

1  被告工務所が被告保険会社との間に締結している契約は自動車損害賠償責任保険契約であつてその内容は損害保険各社共通の自動車保険普通保険約款(以下単に任意保険約款という)によるものでその第二章第一条第一項は「当会社は被保険者が・・・法律上の損害賠償責任を負担することによつて被る損害を賠償責任条項および一般条項に従い填補する責に任ずる」と定めているが被保険者の保険会社に対する保険金請求権が具体化し行使することができる時期については何らの定めも置いていない。

そこで損害保険会社は保険金請求権具体化の時期を、第三者と被保険者間の賠償責任の確定即ち示談成立ないし判決等の確定の時期として実務を定着させている。

2  そして右実務は次の根拠によるものである。

責任保険の目的は保険事故を媒介として被保険者たる保険契約者が第三者に対し損害賠償責任を負担することによつて蒙る不慮の経済的負担を填補することであるから対人損害賠償責任保険においては第三者に損害が発生し被保険者がこれにつき損害賠償責任を負担する関係になければならないが、この場合観念的には被保険者が賠償すべき額は死傷事故の発生によつて一定額として存在するように考えられるが実際上は示談の成立又は裁判、和解の確定手続を経ない限り具体的数額を確知することができない。その確定によりはじめて被保険者は保険者に対して保険金を請求しうるに至るがこの場合においても保険契約上の事由(例えば無免許、飲酒運転による事故については免責とされる等)から保険金請求権が発生しないこともあるから保険金請求権と損害賠償請求権とは全く同一ではなく発生原因、発生時期も別異な別個の請求権である。

従つて賠償責任保険の保険事故とは自動車事故の発生そのものではなく被保険者の法的責任の有無および範囲の確定(責任の確定)をいうものといわねばならない。

仮に保険事故を責任の確定ではなく、死傷事故の発生とみる見解に立つとしても前記のとおり責任の確定が少くとも権利行使の要件をなすものであるからそれ以前において保険金請求権を行使することはできない。

3  右の論は任意保険約款の他の諸規定からも支持される。約款第二章第一条第二項は自動車が自賠責任保険締約強制車である場合について「当会社はその損害の額が同法に基づき支払われる金額を超過する限りその超過額を填補する責に任ずる。」と規定するが自賠責保険に基づき支払われる額を超過するか否かは責任の確定なくしては確知し得ない。

前記約款第三章第一一条第一項第二号は事故報告義務、同第四号は保険者が行う損害調査への協力義務を定め第一四条は保険金の請求に当り「損害額を証明すべき書類」の提出を義務づけ、第一五条第一項は右書類提出があつてはじめて保険者に保険金支払の責に任ずること、同第二項は損害額の調査終了まで保険者は保険金の支払いを行わないことを定めるところから保険金請求権は責任の確定をまつてはじめて具体化しそれまでは抽象的な期待権に止まること明らかである。

4  現行約款は昭和四〇年八月以降用いられそれ以前の約款では被保険者の第三者に対する損害賠償額の支払を保険金請求の前提要件とする先履行主義がとられて来たが現行約款がこれを廃止したけれどもそれは加害者が無資力で先履行不能のとき被害者の保護に欠けることを理由としたものでその改正の狙いが保険金請求に責任の確定すら必要としない趣旨であるなら保険関係において独自に損害額を確定させる手段方法、将来確定される被保険者の損害賠償額との不一致の調整に関する何らかの手当を必要とするのにそれをなさず責任の確定を前提とする規定を置いたのみであることからこれは現行約款が先履行主義を改めて確定主義をとつたにすぎず更に進んで発生主義或いは請求主義にまで進んだものでないと解される。

5  保険請求権が責任の確定以前に発生するとすれば消滅時効の関係で極めて不合理な結果を招く即ち消滅時効の起算点は「権利を行使し得るとき」であるから責任確定以前(自動車事故の発生、又は被保険者に対する被害者側からの請求)に保険金請求権が発生したものとすればそのときより二年を経過したときに短期消滅時効が完成することになる。これは保険契約者にとつて著しく不利益であるばかりか従来の保険実務を大きく覆えし大混乱を招くこととなり、自賠法第一五条の保険金請求権の時効は被害者への支払時を起算点とするのに自賠責保険を上廻る責任額の支払を目的とする任意保険が責任額を確定しないうちから時効期間が進行し自賠責保険より先に時効が完成するという不合理を来す結果となる。

更に責任の確定をまたず保険金請求権が発生していると解すると被害者以外の第三債権者も保険金請求権を代位行使しうることとなり却つて被害者側に不利益な事態を招きかねないのである。

以上のとおり損害賠償責任額の確定のないまゝ提起された本訴は保険金請求権未発生の状況で提起されたものであり(仮に発生しているとしても権利行使の要件の欠くものである)不適法であつて却下を免れない。

(二)  責任関係訴訟との併合について

前記のとおり賠償責任額の確定なき限り保険金請求訴訟は不適法であるが一部に責任関係訴訟と併合されるなら適法との論もありその論拠として保険関係訴訟のみを先に確定させることはできないとする意味で両訴訟は片面的必要的共同訴訟と解することによつて責任関係と保険関係とで区々に責任額の具体化が行われる無駄と混乱が回避し得且つ両者の判断が区々になるおそれもないからであるという。しかし必要的共同訴訟とは判決の効力(既判力又は形成力)が当事者以外の第三者にも及ぶため、それらの者が別個に訴え或いは訴え得られるとするときは判決の効力が相互に抵触し、混乱を招くような事態の発生を防止せんがためにこれらの関係者を必要的に共同訴訟の当事者となさしめて判決の合一的確定を計るものである。

ところが責任関係と保険関係においては一方に関する判決の効力が当然に他方に及ぶものではなく、たかだか論理的に矛盾があつては困るというにすぎない。このような場合にまで必要的共同訴訟を認めることは現在の訴訟法理論を全く無視するもので採用の限りではない。

二 本案についての答弁並びに抗弁

(一)1  請求原因第一項の事実中、原告の傷害の点を除き認める。

2  第二項の事実中、本件事故に関する事実は不知。

その余は認める。

3  第三項の事実中、原告が原告訴訟代理人に訴訟委任したことは認めるが、その余は不知。

(二)  本件事故は原告が被告工務所の業務に従業中のもので任意保険約款第二章第三条第一項(四)に該当し被告保険会社は保険金支払の義務を負わない。

即ち本件事故は被告長谷川が被告工務所の常傭運転手として加害車を運転し上司である原告はこれに同乗して残業した従業員を送り帰社途中で業務従事中の事故である。

任意保険約款第二章第三条第一項は「当会社は被保険者が下記各号の賠償責任を負担することによつて被る損害を填補する責に任じない。」と定めその(四)号は「被保険者の業務に従事中の使用人に対するその使用人の生命又は身体を害したことに起因する賠償責任。たゞし使用人の業務が家事である場合を除く。」としているので本件はまさにこれに該当するから被告保険会社は本件保険金支払義務がない。」

と述べた。〔証拠関係略〕

理由

一  被告保険会社の本案前の抗弁について

〔証拠略〕によれば被告工務所が被告保険会社との間に締結している保険契約は自動車保険普通保険約款(所謂任意保険約款)を内容とし、被告工務所が「法律上の損害賠償責任を負担することによつて被る損害」を保険者たる被告保険会社が填補することを目的とするもので、この場合の保険金支払額は被保険者の負担する賠償責任額がその前提となり、これは事故の発生によつて抽象的にその損害額も発生するものと観念することが可能ではあるが現実の賠償責任額は示談又は裁判、和解等の確定手続を経ることにより具体化され、その具体的数額の確定をまつてはじめて被保険者は保険者に対して保険金を請求し得るに至るものである。

前記任意保険約款は昭和四〇年八月以降使用されていることは公知の事実でその以前の約款では被保険者の第三者に対する損害賠償額の支払いを保険金請求の前提要件とする先履行主義がとられていたがこれが改正されたものゝそれは被告保険会社の主張するとおり加害車が無資力で先履行不能のときに被害者保護に欠ける幣害を除くことが目的であつたのであるから前記改正により保険金請求権行使期時を賠償確定の以前に遡らせたものと解するのは相当でない。

確かに保険金請求権行使の時期を賠償額確定前に認めるとすれば被告保険会社の主張するとおり消滅時効の問題更には賠償額確定の責任関係と保険関係との間になされる判断の矛盾による幣害などを考慮すれば保険金請求権行使には被害者と加害者との間で損害賠償額が確定されることが前提となるものであると解するのが相当である。

ところが本件においては原告は責任関係における加害者たる被告長谷川、被告工務所に対する訴訟を被告保険会社に対する保険金請求の訴訟と併合して提起しているものでありこの場合には前述の保険金請求権行使の要件は具備されていないのであるが、両請求が併合訴訟として審理される限り責任関係と保険関係で別々に責任額の確定が行われることによる無駄や矛盾が回避されるのであるから前記賠償額の確定を保険金請求権行使の前提とすることの要件は緩和して解釈すべきであり、且つ訴訟の形態としては被告保険会社の主張するとおり訴訟法上予定されていないとはいえ前記目的から責任関係の訴訟と保険関係の訴訟が併合されることにより例外的に適法となるものと解するのが相当である。

以上の理由により被告保険会社の本案前の抗弁は採用することができない。

二  請求原因第一項の事実中、原告の受傷の点を除きその余の事実は当事者間に争いがなく、〔証拠略〕によれば原告は本件事故により原告主張のとおりの傷害を受けたことが認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。

三  被告長谷川は右事故の直接加害者として、被告工務所は加害車の運行供用者としての責任を認めるので両者はいずれも本件事故により原告が蒙つた後記損害を賠償すべき責任がある。

四  原告の損害

(一)  休業損害

〔証拠略〕によれば原告は本件事故当時被告工務所に勤務し現場監督および現場責任者として少くとも毎月金五万五、〇〇〇円の収入を得ていたが本件事故により前記傷害を受け治療のため赤田整形外科に通院し昭和四四年四月八日から同年八月二七日までの間に六二日間就労できず同月二八日症状悪化により入院し昭和四六年九月三〇日までの二四ケ月間右外科に入院して稼働できなかつたので本件事故がなければ右期間である二六ケ月間の金一四三万円の収入が得られたのに右事故のため右収入が得られず右金員の損害を受けたことが認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。

(二)  過失相殺

〔証拠略〕によれば原告は前記のとおり被告工務所の現場監督および現場責任者であり被告長谷川は被告工務所の運転手として加害車を運転し資材運搬人夫の送迎の業務に従事していたが本件事故当日人夫達が残業し午後七時過頃帰宅することになり原告も前任者との打合せもあつたので人夫達と共に被告長谷川の運転する加害車に同乗して八幡区町上津役に寄つて所用を済ませ人夫を送り人夫の一人である訴外田中節雄方で同人に招かれるまゝ午後七時三〇分頃から午後一一時頃まで同人宅で飲酒しその間被告長谷川を待機させ同日午後一一時二〇分頃会社へ帰るべく帰途上において本件事故に遭つたことが認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。

以上のとおり原告は業務従事中の被告長谷川を自己の都合から数時間待機させ深夜加害車を運転させたのであつてそれが本件事故の直接の原因となる過失とはいえないが過失相殺の対象となる不注意に準ずるものと評価し得べく、その過失相殺の割合は三〇%とみるのが相当である。

(三)  慰藉料

〔証拠略〕によれば原告は本件事故による受傷時赤田整形外科で診察を受け左側頭部打撲擦過傷、頸部捻挫の診断を受けたが頭部頸部のレントゲン検査により異常が認められなかつたので入院の必要はないとして通院治療を受けることになつたが当時原告の勤務先の仕事が多忙時でもあつたので原告は医師に相談することもなく前記業務に従事し初期における治療が不十分であつたため症状を悪化させて昭和四四年八月二八日右赤田整形外科に入院するに至り前記のとおり入院期間を長期化せしめる一因を与えたこと、原告は被告長谷川および同工務所に対し全く第三者的立場になく同僚であり雇傭関係にある上本件事故は被告工務所の業務を終了して帰途上のものであること、しかし原告の個人的理由から被告長谷川を深夜まで待機させて加害車を運転させた上でのことであること、その他本件事故態様および諸般の事情を考慮すれば原告の慰藉料は金八〇万円をもつて相当とする。

(四)  弁護士費用

弁論の全趣旨によれば原告が被告らが任意の弁済をしないので訴訟提起追行を原告訴訟代理人に委任したこと、手数料を支払つたことが認められるので本件訴訟の経緯その他諸般の事情に鑑み弁護士費用は金六万円をもつて相当とする。

五  被告保険会社の抗弁について

〔証拠略〕によれば前記任意保険約款第二章第三条第一項は「当会社は被保険者が下記各号の賠償責任を負担することによつて被る損害をてん補する責に任じない。」と定めその(四)号は「被保険者の業務に従事中の使用人に対するその使用人の生命または身体を害したことに起因する賠償責任。たゞし使用人の業務が家事である場合を除く。」と定めていることが認められる。そこで本件の場合について考えるに前記のとおり原告は被告工務所の現場監督、現場責任者であるから主として右工務所の作業現場で業務に従事しているものであるが本件事故当日は現場作業終了後たまたま前任者との打合せ事項があつたので前記認定のとおり加害車に同乗したものでその打合せ事項は原告の業務に附随するものであるとはいえ、原告帰途上目的を果すため加害車に便乗したものであるからその打合せ事務終了の段階においてはもはや原告の附随的業務も終了したものとみるべきである上、原告はその後加藤宅において午後七時三〇分頃から午後一一時頃の深夜まで飲酒しているのであるからもはや事業主の支配管理は全く離れたものといわざるを得ない。その間被告長谷川は待機し飲酒終了後加害車に原告を同乗して被告工務所へ帰る途中本件事故が発生したもので右事故に原告の業務性を帯びさせるのは相当でないから被告保険会社の免責の主張は理由がない。

そうであれば被告らは各自原告に対し金一八六万一、〇〇〇円およびこれに対する本件記録により本訴状の送達された日が昭和四六年八月二三日であることが明らかでその翌日である同月二四日から右完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務がある。

よつて原告の本訴請求は右認定の限度において正当と認められるのでこれを認容しその余を棄却し、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八九条第九二条本文、第九三条第一項本文を、仮執行並びに仮執行免脱の宣言については同法第一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 松尾俊一)

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